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「父を殺したい」という思いは俺から一時も離れなかった。寝ても覚めてもこの思いが俺を支配し、日々増し加わっていった。そして、その有り余る怒りと鬱憤は多くのクラスメート達に向けられた。俺の入った私立高校は勉強はさほどでもないが、スポーツでは全国的に有名だった。その為か、教師陣も運動会系が多く、皆暴力的だった。男子校という事もあって、教師達は無遠慮だった。口で言えば分かることさえも先ず、殴らねば気が済まないのか、とにかく暴力的で、それが悪いパターンのようになっていた。俺を含めて生徒達は皆、よく殴られ教師たちを恐れ萎縮していた。そのような緊張感が学生達の間で破裂し、よく喧嘩があった。俺は入学して半年のうちに二度停学処分を受けた。そして二度目の処分が明けて間もなく、俺は他のクラスの学生と大喧嘩をして相手の鼻を折ってしまった。この事件が学校にばれれば、もう強制退学かも知れない。そう考えると俺は「どうせ辞めさせられるのなら自分から辞めてやる、それに一年目でこのザマなのだから卒業など遠い夢の又夢だ」と思った。そうしてさっさと退学を決意してしまった。そう決意したら急激に自暴自棄の坂道を転がり落ちていった。俺は高校中退者だ。これからどうするのか。答えなどあるはずもなく、更に映画による現実逃避を続けた。当時の日本がアメリカのように手軽に麻薬が手に入る社会だったら俺は今頃完全にジャンキーになっていただろう。
ある晩、俺は期待はずれな映画を観てしまい、途中でイスを蹴飛ばして映画館を出た。外は寒く、小雨が降っていた。家に帰りたくないと思った。重い足取りでネオン街を濡れながら歩いていると、突如として、凍え死にそうなほどの寂しさを覚えた。俺は思わず立ちすくんでしまった。酔っぱらい達がばか笑いしながら通り過ぎて行く。OL達も足早に駅へと消えて行く。みんなのっぺらぼうのように見える。「俺ものっぺらぼうなのか?」と思った。俺はその夜、映画の覚醒作用にも限界があることを知った。俺は追いつめられた狂犬のようだった。勝ち目のない相手に勝てるかの如く錯覚し、よく吠えた。その頃、父との関係も以前に増して緊迫していた。しらふだと、もはや俺に近づく事も無くなったが、酔うと腰が据わるようだった。俺の父に対する嫌悪は、これ以上持ちこたえることが出来ないほどに高まっていた。俺は自暴自棄にあり、父を殺して自分も死のうと、半分は自嘲の思いで、そして半分は本気で一本のナイフを買った。そしてそれを抜き身のまま枕の下に隠しておき、チャンスを静かに待った。そして幾日もしないうちに泥酔いした父が見境無く、俺の部屋に乱入してきた。俺は突然後ろから殴られ、倒れた勢いで家具の鋭角部に顔面を強く打った。激痛と同時に俺は半分気を失った。すると父が俺の上に馬乗りになり激しく殴打した。俺は朦朧とする中、必死に手をベッドの枕の下に伸ばした。次の瞬間、悲鳴と共に鮮血がぱらぱらと散った。父は何やら叫びながら、切られた手を押さえながら走り去った。一瞬の出来事だった。俺は父を追いかけようとしたが、顔面の痛みが激しく、気が付くと俺も血を流しており、気力も体力もなく、ヨロヨロと床に崩れ落ちドアの鍵を閉めた。外ではまだ父の叫び声が聞こえる。どうやら俺を警察に突き出そうとしているらしいが、母が泣き叫びながらそれを止めようとしてくれている。俺は両親の叫び声を聞きながら、床に飛び散った父の血がだんだん錆色に変わって行くのを見つめていた。妙な薄笑いがこみ上げてきた。次の瞬間、俺はもう死のうと思った。
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